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政府が国連など国際機関の主要ポストの獲得に向け、取り組みを強化している。15の国連専門機関の1つである万国郵便連合(UPU)の国際事務局長選挙に日本人候補を初めて擁立したほか、戦略的な人材育成などを話し合う省庁横断型の連絡会議も新設した。現在、中国は4つの専門機関のトップを占め、影響力を強めているのに対し、日本人はゼロだ。国際機関はルール作りなどで重要な役割を担うだけに、日本も長期的な対応が求められる。
UPUは国際物流のルール作りを担う機関で、新型コロナウイルス禍で国境を越えた電子商取引が活発化する中、重要性が増す。8月にコートジボワールで開かれる総会の選挙で新事務局長が選出される予定で、日本郵便執行役員の目時(めとき)政彦氏とスイス、ベルギーの3候補が争っている。
目時氏はこれまでUPU郵便業務理事会議長などを歴任し、政府関係者は「目時さんは国際的な実績や加盟国の知名度もある。候補者として最適だ」と話す。
政府は2月、外務省と国家安全保障局(NSS)を共同議長に16省庁が参加する連絡会議を初めて開き、国際機関のポスト獲得へ政府一体で取り組む方針を確認した。人材育成や候補者擁立などを協議し、夏にも第2回会合を開催する。
背後には存在感低下への危機感がある。日本は1980年代以降、世界保健機関(WHO)や国連教育科学文化機関(UNESCO)など専門機関や関連機関の事務局長ポストを獲得。だが、2019年に国際原子力機関(IAEA)事務局長の天野之弥(ゆきや)氏が亡くなり、いなくなった。
国際機関で影響力を発揮するには、事務局に日本人を増やすことが欠かせない。事務局は中立の立場だが、日本人が幹部ポストにいれば意思疎通や関係構築がスムーズになるためだ。
存在感を増すのが中国だ。国連食糧農業機関(FAO)や国際電気通信連合(ITU)など4つの専門機関のトップを占める。外務省幹部は「中国は人を送り込むことで、自国に有利な国際世論やルールを作ろうとしている」と警戒する。政府開発援助(ODA)予算も減る日本とは対照的に、中国は経済力を武器にアフリカなど途上国の支持を取り付けている。
昨年の世界知的所有権機関(WIPO)の事務局長選では米国などが中国人候補の選出阻止に動き、日本も自国候補を取り下げて米国の推す候補を支援した。日本として友好国との連携も重要になる。
今月2日には世界貿易機関(WTO)事務局長上級補佐官に外務省国際貿易課長などを務めた宇山智哉氏が就任した。WTO改革などにあたるオコンジョイウェアラ事務局長を直接支える新設の幹部ポストで、日本政府の働きかけが奏功した。外務省関係者は「アジアの貿易問題や貿易の構造を熟知している」と期待をかける。
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国連は途上国支援や平和維持活動などで、世界各国の企業から物品やサービスを購入し、年によっては全体の調達額が2兆円を超える。だが、日本企業の参入は中国などの後塵(こうじん)を拝している。
2019年の国連の調達額は199億ドル(約2・2兆円)に上ったが、このうち日本企業は1%に満たない約1・33億ドル(約140億円)。米国や中国だけでなく、韓国も下回り、世界で39位だった。
国連が調達するものは輸送サービスや自動車、簡易住宅、食糧、医薬品など多岐にわたる。入札の参加や国連の各機関の調達情報を知るには登録が必要になるが、日本企業の登録は中国や韓国より少ない。
このため、外務省は国連の調達に関するセミナーを開催しており、今年2月には約200社が参加した。セミナーに参加した企業が国連児童基金(UNICEF)に新型コロナウイルスワクチンを保管する冷凍庫を納入することが決まるなど、実績も出始めている。
国連の途上国支援はアフリカや中東が中心で日本企業は輸送費などで不利な面もあるが、外務省は「すぐれた製品やサービスを持つ日本企業への期待は高く、新たな市場に進出する糸口にもなる」と話す。
筆者:田村龍彦(産経新聞)